むかしむかし、現在のベトナム北部と中国南部にまたがるあたりに嶺南(リンナム/Lĩnh Nam)という地がありました。
そこを治めていた涇陽王(キンズンヴン)はある日、湖へ遊びに行きそこで竜王の娘の竜女に出会います。
やがてふたりは恋に落ち、ほどなくして男の子が生まれました。
王子は父親と同じように大変な怪力の持ち主で、陸上でも水中でも自由に行き来できる不思議な力を持っていました。
成長した王子は王様となり貉竜君(ラックロンクアン)と呼ばれるようになりました。
ラックロンクアンと怪魚
その頃の嶺南(リンナム)はまだ荒れ果てた土地であり、恐ろしい獣や妖怪がうろついていて、とても人びとが安心して住めるようなところではありませんでした。
そこで貉竜君(ラックロンクアン)は国中をくまなく歩いて見てまわることにしたのです。
まず東南の方へ下った彼は海岸で長さ500メートル以上もあろうかという怪魚に出くわしました。
死闘の末、貉竜君(ラックロンクアン)の剣によって怪魚は3つに切り裂かれました。
怪魚の頭部はたちまちアザラシに変わりましたが、貉竜君(ラックロンクアン)はこれも斬り捨て、その頭を山の上に投げ捨てました。
ラックロンクアンと化けギツネ
怪魚を退治したあとに彼が向かったのは竜編(ロンビエン)です。
ここでは9つの尻尾を持つ化けギツネが村の娘たちに悪さをしていました。
三日三晩続いた戦いの末、貉竜君(ラックロンクアン)は見事に化けギツネの首を斬り落とします。
その後、水中の生き物たちに命じて川の水を持ち上げさせ、滝のような水の流れでキツネの住処だった洞穴を埋め尽くし、たちまちそこを深い淵に変えてしまいました。
次に貉竜君(ラックロンクアン)は山の方へ向かい、天に届くほどまで成長した巨木の怪物を退治し、村の人びとに平安をもたらしました。
彼は人びとにイネを植えることを教え、親子としての生き方や夫婦のあり方など、人間としてあるべき姿を説きました。
ラックロンクアンとオウコ―
その頃、嶺南(リンナム)のさらに北方から仙人の一族が攻め寄せてきました。
山を支配する仙人の王には嫗姫(オウコー)という美しい娘がおりました。
彼女は敵であるはずの貉竜君(ラックロンクアン)の凛々しく美しい姿に夢中になり、妻にしてくれるように頼みます。
そうしてふたりは貉竜君(ラックロンクアン)の宮殿に住み、やがて100人の男の子に恵まれました。
しかし、いつしか二人の間には深い溝ができます。
「私たちは水と火のように異なる存在で、一緒にいるのは困難です。しかし、私たちの子供たちはこの土地を統治する運命にあります」
息子たちのうち50人は仙人の一族である嫗姫(オウコー)とともに山に残りここを治め、残りの50人は竜の一族である貉竜君(ラックロンクアン)とともに海へ降りてそこを治めることになりました。
ラックロンクアンの長男による建国
住む場所は違えど100人の子どもたちは皆、丈夫でかしこい若者に成長し、彼らはのちに中国南部にいたと伝えられる「百越族」の祖先となりました。
そして長兄は雄王(フンヴオン/Hùng Vương)と名乗って国王となり、ベトナム史上最初の王朝とされる文郎国を建国しました。
その後18代にも渡って国を治めたということです。
これがベトナム国家の始まりとされています。
ベトナム5000年の歴史
ベトナムの地の始まりは文郎国として、紀元前2879年から紀元前287年までフンブン王が18世代にわたって統治してきました。
18人の王様で約2600年を統治するということになるので、1人あたり平均して145年間即位していたことになります。
?!
一体どういうことでしょうか?
数字のマジックを使用しているのでしょうか?
そのあたりの謎は歴史家に任せ、私たちは神話や物語として楽しんでおきましょう。